本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

ヘンな話だなああ*江國香織『左岸』

5月に記事を書いた『抱擁、あるいはライスには塩を』を読み終えて、なんとなくカバーの折り返しに印刷された著作リストを見ていたら、「いつの間にか読んでない本が増えてる〜」とはっとしました。で、目についた何冊かを購入し、この本から読みはじめたんだけど、「これって江國香織ですか!?」と首がかしがるくらいヘンな話なんだなあ。

ヒロインである茉莉は、17歳の高校生。父は福岡の国立大学の教授で、母は専業主婦。「あ、今回は東京じゃないのね」と舞台に新味を感じましたが、恵まれた境遇で暮らす女子という設定から、今まで読んだことのある江國作品のバリエーションを予想しつつ文字を追っていたですよ。

が、ヒロインの子ども時代から話がはじまるも、彼女が成長した姿で登場する2章にはいったとたん、ディスコ(1970年代)で知り合った店員(黒服という言葉は当時なかったはず)をやっていた、ふらふらした感じの男と駆け落ちして上京。へっ?猥雑そうなエリア(川崎市)で男の先輩をまじえて3人で暮らすんだけど、ほどなく彼氏をスイッチ。はあ?


で、新しい彼氏がいい男かというと、元カレより生活力はあるものの、とにかくぐずぐずぐずぐず…した暗そうな年上。ええっ?この後にもヒロインはいろんな男と出会うんだけど、その多くが見事に「だめんず」。

これは江國さんなりの『だめんず・うぉ〜か〜』なのか…。江國作品には突飛でシュールなお話がいくつもあるけど、この本はリアルを意識している様子にもかかわらず、ファンにキツネにつままれたような不思議な感覚をもたらす異色作ではないかと。とにかくヘンである(笑)。

いつも江國さんの小説を読むときは、話の筋がどうなるのか…という興味より、文字が構成する世界の匂いを嗅ぎたかったり、好きな銭湯のお湯に身を浸すときに感じる安心感みたいなものを期待してる気がするんですけどね、今回ばかりは「この先、どうなるんですか」と思わずにはいられなかったです。

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やっと文字を入れることができた〜。約1カ月の間、このページに画像を入れたきり放置しておりました。実はですね、画像をアップして「さあ、文字を書くか」と思っていたところ、かねてより気管の腫瘍で療養中だった猫が、急に荒い息をし始めて危篤になっちゃったんです。

腫瘍の場所と年齢から手術ができず、徐々に弱っていく姿を数ヶ月間見守っていたので、別れの日が近づいてるのは分かってました。が、いきなり感は否めず。ひと月近くたって、ようやくこのページの文字を書く気になったです。まだ悲しいけんど。