本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

不死身のイチョウ



近所の街路樹の葉っぱはすっかり大きくなって、お馴染みの顔つきになってきました。若葉のライトな緑色に浮かれてた私も、少し落ち着いてきたですわ(笑)。今日はフォルダに残ってた新緑シリーズの最後、イチョウいってみます。

いつもカメラのストロボはオフにして、光が足りないところでも発光しないようにしているんですが、なぜかオンになっていた模様。葉っぱが光に透けた感じを狙ったのに、ストロボが光っちゃったため、暗くて明るい妖しい雰囲気だ〜。ま、イチョウの葉は比較的厚みがあるので、カエデ(記事は4/30)のようなふわんとした風情には映らないんですけど。

イチョウといえば思い出すのが、イチョウ葉エキスのこと。脳の血流を改善するといわれてる、健康食品のあれです。もう10年以上前のことになるんですが、仲間のライター何人かと組んで、夕刊紙で健康食品に関する短期連載を書いてたことがあるです。

夕刊紙っていうのは基本的におじさまたちが読む媒体なので、取り上げる健康食品は必然的に加齢によって衰える機能を補うタイプのものが多くなります。で、連載3回目だったかな、「やるべし」と指令を受けたのが、イチョウ葉エキス。当時は「は? なんですか、それ」でした。



基礎知識も予備知識もないので、まずは持っているパンフレットやリーフレットをたんまり読み、ネットで調べ、「たぶんこのへんのメーカーさんにコンタクトを取るといいかも」というあたりを10社くらいつけます。

仲間と情報交換をしつつキモになりそうな所を絞り込み、取材を申し込んで話を伺うという段取り。最初に足を運んだリーダー的存在のメーカーさんで「へ〜っ」と思ったのは、イチョウ葉エキスの研究は浅草寺イチョウの木がきっかけだったということ。

なんでも、健康に役立ちそうな成分を世界各地で探していたドイツの企業が、(第二次世界大戦の)東京大空襲で焼けてしまった黒こげのイチョウが「翌年芽吹いて、蘇りはじめた」という話を情報網でキャッチ。「強い生命力を支えるなんらかの成分があるのではないか」と、当時は未開拓だった分野の研究に着手したそうです。

この手の話は余談の部類に入るので、原稿には書かないんですが、妙に忘れられなかったりする。今だってマダガスカルの植物等々、化粧品用の新成分の探索は、こういう感じで行われてるみたいだし。世の中、変わったようで変わってないところもあるかな。

イチョウの葉にはフラボノイド(抗酸化物質であるポリフェノールの一種)のほか、ギンコライドなどのテルペノイドが含まれていることが解析され、製品化に向けてその後も研究が続いたということでした。この時、さらに興味深いこと聞いたんですね。

有効成分が判明したんであれば、それを抽出した製品を作ればいいじゃん、と思いますわな。ところが、イチョウ葉エキスの場合は、いろんな成分の配合の妙っていうんですかね、微量の成分を含めたある種のバランスがとれていないと<効かない>ということ。すごくおいしいお料理のレシピみたいです。

ものごとを分かりやすく噛み砕き、核心みたいなものをシンプルに表現することは大事なことだけど、複雑にいろんな要素が絡み合ってるからこそ絶妙にバランスする、という世界もあることも忘れちゃならんよ〜といわれてるようで、はっとさせられましたわ。若い時はなんでも「つまり、どういうこと? 本質は??」みたいに、ある意味、還元主義的に突き詰めて考えたりしますが、それじゃあ乱暴すぎてしまう場合だってある。トシを食った今だから、このニュアンスが気になったりして。

中沢新一の宗教入門(マドラ出版、93年)にこんな一節がありました。

    • ーー難しいことを一生懸命にやさしく言おうとしてるんだけれども、考えてることが難しいんだからしようがない。そう言っても、「そりゃだめですよ。テレビ向きに表現してください」と言われる。そうすると、自分でもあきれるくらいにすごくラフな表現になっていく。そうするとほめられる。「考え方が大人になった」って言ってね(笑)。p68-69

最初にこれを読んだ時は、「なるほど〜」と納得する一方で、どこかに「いや、どんなことでもエッセンスというか、コアな部分があるはず。そこだけを簡単に教えてくださいな」というせいた感じの自分が、今より濃くあった気がするですね。引っかかってるから、ずっと忘れなかったんでしょう。いやはや。

ものごとをじっくり味わえる(?)ようになった点は年増になって良かったことだけど、記憶力の方は激しく減退。バランスって難しいわ(笑)。

*芋蔓本*
中沢新一「宗教入門」(マドラ出版、93年)はテレビ東京の深夜枠で放映された番組「夜中の学校」の内容を書籍化したもの。アマゾンにはなかったです。あれ。