本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

冥い場所で出会うのは*梨木香歩『f植物園の巣穴』



なんか寒気がするですよ。ざわざわ。
年末あたりから何度も「風邪を引きそうだ〜」って感じてたのですが、
思わぬことで身の回りがばたばたしていたため、気を張ってたのかもしれません。
今ごろ来たかなあ。やばいなあ。さっさと読んだ本を記録しておこうと思います。

本日のは、梨木香歩f植物園の巣穴』09年、朝日新聞出版刊。
夏に読んだ初めての梨木作品である『西の魔女が死んだ』に、
「ひえっ。主人公の感情変化についてけない」と面食らい、
1冊読んだだけで封印作家のくくりに入れそうになりました。

が、いきなり肌に合わないと判断するのは性急かと思い、
wikiやら何やらを読んでみて分かったのは、『西の魔女…』は子ども向けの作品であること。
映画になるほど売れた(?)ため、代表作のように取られがちですが、
まったく違う作風のものがいろいろあるらしい。

twitterで仲良くしてもらっているtomo__eさんが、
江國香織の読者層とかぶる気がします」と耳打ちしてくれたこともあり、
(江國作品はスイーツのように愛してるんで)2冊目にいってみたわけです。




で、『f植物園の巣穴』ですが、これはとても意欲的な作品だなあ。
見直しました。おもしろいです。ストーリーとしては 冥界巡り系かな。

最も有名なギリシャ神話のオルフェウス伝説だと、
オルフェウスは死んだ妻に会いたくて死の国に出向く。
一方、『f植物園…』の主人公(植物園の園丁)は、特に会いたい人がいるわけじゃないのに、
図らずも冥(くら)い世界に落ちてしまう。

そこで出会うのは、すっかり忘れていた人々。
主人公は普段の生活の中で、こうした人たちを意識することはないので、
「会いたい人? そんなことより植物園の植栽計画の方が大事」という風情なのですが、
より良く生きるために(くさいけど)、
何人かの人に会わなきゃいけないことを、心の底では察知していたのかもしれない。
冥い異界は、主人公の無意識といってもいいかもしれんです。

この世界が奇天烈で、人間や魑魅魍魎がぐにぐに入れ替わって、ほんとにおかしい。
たとえば泉鏡花の作品に出てくる魑魅魍魎は、
魑魅魍魎として出てきたら魑魅魍魎として安定している。
ところが『f植物園…』では、人間が犬になったりナマズになったり往復に忙しい。
スライムの如しというか、モーフィングのようで不気味。楽しいわ(笑)。

お話しの最後に、
主人公の経験が常識的に説明されるので、
読者はヘンな登場人物(?)で沸き立つ異界を、それなりに納得できるようになってます。

ただ、端正な書き方ゆえに、へんてこな世界が際立つともいえるんだなあ。
あと、異界が異界と分かるまで、何が書かれているのかが掴めず、
「??」となる可能性もあり。おせっかいだと思うけど、一応ね。