本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

よくぞ思いついた*純情ババァになりました。

amazonのレビューがやたら良かったので、
気軽な読み物として購入した加賀まりこ純情ババァになりました。』(講談社文庫)。
これ、面白い。当たりです。

初出は『FRaU』誌上で、00年4月から04年7月までの連載。
この記事にふたりの男性(立川談志立木義浩)の対談を挿入して、
1冊に編んでいます。
もともとは、連載の終了より半年少々早い04年1月に
新潮社から『とんがって本気』というタイトルの本が出てたみたい。
断然『純情ババァ…』の方がいいですわね。
よくぞ思いついた。編集さん、冴えてます。

女優やモデルなどの華やかな仕事をしている女性のエッセイは、
仕事についてのほか、交友関係、美容法、ファッションなどを
当たり障りのないさらっとした筆致で書いていることが多い。
しかーし、この本は歯切れが良く、かなり突っ込んだ内容。


  • ーー加賀まりこはいわゆる正統派の”和風美人”ではないし、ましてやデビュー後何年かはお約束のように”清純路線”で売られがちな日本の映画界では、決して標準的(スタンダード)ではなかったから。/チョイと珍しげな西洋野菜。p174

ライターがからんでいる可能性が高いかもしれないけど、
エッセイ中で自分のことをこういうふうに分析してみせるとは、
いい意味で予想を裏切られたですわ。
それから1943年(昭和18年)生まれと明記しているとこも、すごい。女優なのに(笑)。

片岡義男が何かで
「日本では女性の年齢を書いただけで、どういう生活をしているのかが自ずと分かる」
みたいなことを書いてました。だから


  • 運転席のドアが、開いていた。その運転席に、三十二歳の平野美保子がすわっていた。『嘘はほんのり赤い』(角川文庫)収録「雨の降る駐車場にて」p213 

と綴って、フィクションと現実との距離感を
暗に示す基準点のようにトシを使っているんじゃないか。
昔より「年相応」みたいなことをいわなくなったと思いますが、
まだまだこういうジョウシキは生きている気がする。

去年、加賀まりこ藤原紀香と共演するTVドラマを偶然見かけ、
年齢的にはおばあさんの役がついてもおかしくないのに
きりっとした雰囲気を保ちつつ「この人は何をしてきた人なんだ??」って思わせる
酸いも甘いもかみわけた不良っぽい年増を好演してたのに感心したです。

加賀まりこが生年を明らかにしているのは、
年相応という常識的な外圧から身をかわした場所で、
自分を貫いてきた矜持の現れかもしれんですね。そこは孤独な場所だと思うけど。
秋山庄太郎が撮影した、カバーに使われている若いころの写真が痛く見えないのも、
若くてキレイ、にこだわってこなかったからじゃないか。