本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう


手元に置いておきたいと思って新たに文庫本を買ったのに、単行本の処分を忘れてた川上弘美。単行本の紙、手触りに味があるんだわ…。悩む。

2冊あるぜシリーズを続けたいと思います。
写真の川上弘美はベストセラーになったから、みんな知ってるんじゃないかな。
『神様』を読んで衝撃を受けて以来、川上ファンなので、
センセイの鞄』が出たとき(01年)、いそいそと本屋さんに出かけたような記憶が。

表紙が柔らかい独特の装本と本文の紙質のためか、
手に持つと「あれっ」と思うくらい軽いんだけど、
まあ、大きさは普通サイズ。場所をそれなりに塞ぎます。

手元に置いておく本は文庫本にしようと考え、
文庫が出たときに買い直して、単行本はさくっと処分する予定だったはずなんだ。
なのに、どうしたことか2冊ある状態のまま何年も過ぎた。
おそらく単行本の味に未練(?)があったのだと思われます。

久しぶりに単行本を開いてみて、紙がすごく黄変しているのに驚きましたよ。
厚みのあるこの紙は黄ばみやすいのかな。
や、20年近く経てば、どんな紙でも黄変するか。

単行本の装丁はキャップ、題字とイラストは吉富貴子。
文庫のカバーデザインは吉富貴子。どちらをとっておくべきか。


若いころは、20年ってすごく長いと思ってました。
赤ちゃんが成人するくらいの時間が経つんだもんね、短くはない。
なんだけど、いざ自分が五十路に突入してみると、
あっさり「長い」といえないものも感じる。

20年前のことが「昨日のことのよう」に思えるわけじゃないですよ。
昔持っていた20年という長さの物差しが、
使えなくなった感覚といったらいいかなあ。

「え、もうそんなに昔のことだっけ?」みたいな、過ぎ去った時間の量がピンとこない感じ。
祖母の年齢の離れた妹(よく行き来していたのでおばちゃんと呼んでた)が、
「80年なんてあっという間だよ」といってたことがあり、
「年をとると時間が早くなるっていうもんなあ」なんて若かった私は思ったけど、
10年前のことも20年前のことも(覚えていることに関しては)、
大して違いはないというのが今の実感だったりする。
年齢だけじゃなく、ぼんやりしているキャラの影響もありそうだけどね(笑)。

この感覚が進行すると、
「80年あっという間」の境地に達するのかもしれない。
どうなるんだろうね。恐ろしいような、興味深いような。

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センセイの鞄』に戻ると、
この小説で好きなのは、酒のつまみがやたらと美味そうなとこ。


    • 「まぐろ納豆、蓮根のきんぴら。塩らっきょう」カウンターに座りざまに私が頼むのとほぼ同時に隣の背筋のご老体も、「塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆」と頼んだ。趣味の似たひとだと眺めると、向こうも眺めてきた。単行本のp8

発音と順番をちょこっと変えてつまみの名を繰り返すの、とっても音楽的じゃありませんか。
冒頭から小説の世界に捕まりました。
あと、知らなかったけど、漫画化もされてるんだね。気になる。