本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

大昔の同僚のことを思い出した*絲山秋子『沖で待つ』


6年も前の芥川賞受賞作を今ごろ読むのはどうよ、と思わなくもないんですが、本棚のこの本がふと気になったのは先週。何年醸造したんでしょうかねえ。絲山秋子沖で待つ』です。

本の帯に「仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く」とあり、内容はまあ、そのとおりかな。もちっと踏み込んでいえば、「同期」との間に流れる色恋には発展しないながらも、時にはそれよりも濃くなるかもしれない関係性についてが描かれた小説といってもいいんじゃないか。

絲山さんとほぼ同時期、私も会社員をやっていたので、80年代に関するくだりがやたらリアルに感じられる。表題作の前に収められている「勤労感謝の日」の下の部分を読んだ時は、小説の内容そっちのけで「ははは。そのとおり」って思ったわ。

  • 「…バブルって。いい思いしたんでしょうって恨まれる。けど、死ぬほど働いたんだよね。うちら。なんもいい思いなんかしてない」「働きましたよね。午前様ばっかりでしたね」p32「勤労感謝の日

みんな若さと体力に任せてわしわし働いてた。バブルの日々は、それはそれは苛酷な日々でしたのう。ボデコンのワンピ着て踊ってる人は、身の回りにはち〜っともいませんでした。まあ、ルイトモという言葉もありますし、いうまでもないか(笑)。

ちなみに最初に入った会社は、おもに不動産の広告を扱う小さな代理店。自分の時間どころか、ちょこっと洗濯をするような時間もなかった。へたれの私は体力的にきつくてあっさり退職しましたが、4大卒同期5人の顔は今も覚えてたりする。いっしょにいた時間は、決して長くないのにね。

と、ん十年前の記憶をたどっていたら、あることを唐突に思い出した。同期のスズキ君がある日、上着にコーヒーをひっくり返したとかで、「この格好じゃお客さんのところへ営業に行けない」と、私の元へボクシーなデザインの木綿のジャケットを借りにきたことがあった。なんぼマニッシュかつ地味な色の服でも、女物は女物。当時はがばりとしたオーバーサイズの服が流行っていたため、スズキ君は私の服に目を付けたんでしょうが、彼が身につけているズボンとは明らかに色も素材も違う。

彼は借りた上着を素知らぬ顔で着たのか、それとも手に持って「暑くて着られましぇ〜ん」という雰囲気を漂わせながら1日をしのいだのか、今ではよく分からなくなっておりますが、そんなこともあった、と思い出しました。 青いぜ。


■絲山氏の日記は<絲山秋子 web site> 内で読めます。ちょうど第9回「絲山賞」(1年間に読んだ小説の中で一番面白かった作品に与えられる賞)が発表されたばかり