本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

怪物級の情熱*モンスター


ずいぶん前になりますが「TVでも見ますかね〜」と思ってスイッチを入れたら
画面に映ったのが「週刊ブックレビュー」。
チャンネルを変えずになんとなく眺めていたら
作者が自著を語るコーナーが始まって、この本が紹介されました。

百田尚樹氏は、読んだことのない作家さんです。
っていうか、読んだことのある作家はごく少ないな(笑)。
で、その氏が「NHK向きの内容じゃない」と苦笑しながら話しはじめたのに
その時、妙に興味を引かれたんですわ。

容姿に激しくコンプレックスのあるヒロインが美容整形にのめり込み、
美女に生まれ変わって故郷の町に別人として戻る。
そこには、ぶすどころか時にはバケモノ呼ばわりして彼女をこてんぱんにいじめた、
かつての同級生たちが暮らしている。
ヒロインは積年の恨みつらみを解消すべく、
レストラン経営をしながら復讐を画策するという感じの内容。

分かりやすい筆致で書かれているんだけど
個人的にはもっと癖があったり、
比喩やイメージに飛躍のある文章が読んでいて楽しいので、
この本は読むプロセスより
「どうなるんだ、この先…」と筋が気になってひたすら前進したです。

おかげで一気に読了ですよ。
amazonのレビューでは男性と思しきレビュアーの方たちが
「自戒を込めて男はこんなもん」みたいなことを正直に(?)書かれてましたけど、
ほんとにこんなもんなのか(笑)。

なんかなあ、第三者の評価や賞賛を渇望し、
それに依存しすぎるヒロイン像に、読んでいて疲れるとこがある、正直いって。
まあ、事実は小説より奇なりといったりしますんで、
現実にはもっとすごいケースがあったりするかもしれんですね。

ふと思ったのは急逝したポップの王様こと、M.J。
晩年の顔って、少年時代とは似ても似つかないものになってた気がする。
一度お直しに着手すると、
容貌に対する強力な熱意というか、別モードが立ち上がるんでしょうか。

音楽であれだけ成功したのに、
別人のような容貌を手に入れる必要があったのかなあ。
その人が強く願って実行していることに、
とやかくいうのは下品だと思うけど、不思議なものは不思議だ。はて。

「より美しい自分に」という意思は、
良くも悪くも今の自分を肯定できないということですわな。
ま、適度な意思ないしは欲は、
生きてゆくために必要な動力だと思うけど、
行き過ぎれば怪物的なものになるのは間違いない。
欲望をモンスター級に増幅するスイッチが、
お直しの世界には潜んでいるということなのか。
そう思って表紙のマネキンの写真を改めて見ると、怖いでござるね。