本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

台所もぴかぴか*キッチン


ノベルティパンダ柄バンダナが欲しい一心で、2冊目の新潮文庫を見繕いました。新潮文庫の100冊にピックアップされている本ならどれでもいいようなんですが、せっかくぴかぴかの限定カバーが出ているんで、派手な10冊の中から、吉本ばななの「キッチン」を選んでみました。

2重に本を詰め込んでいる本棚を探せば、どこかに福武書店のハードカバーの「キッチン」があると思う。2冊目だな。こんなことをやってるから本が溢れるんだ(笑)。ま、これを機にハードカバーの方は処分しようと思います。

読んだのは何年ぶりでしょ。見事に内容を忘れているので、知らない本を読むように読めましたわ。不思議だったのは森田芳光が監督した「キッチン」の映像が何度もだぶってきたこと。


えり子(お母さん)役に橋爪功がキャスティングされていることと、怪演と呼べそうなすかっと突き抜けた彼の演技はかっこいいけど、全体としては映像が陳腐に感じられて、あんまり好きじゃなかったなあ。幻想的に仕上げようとするあまり、ロケーションにこだわりすぎて、かえってつまらなくなっているといいますか。特に夜の日時計のシーンは「……」でしたわ。

ま、今のようにCGが発達していなかった89年の作品なので、森田監督が今撮ったら、全然違うビジュアルになるかもしれんですね。ともあれ、大して感心しなかった作品の映像がかぶってくるのには、我ながらびっくりしました。文字より映像の力の方が強い、っていうことなんでしょう。

村上春樹の羊男のようなシュールなキャラが出てくるわけでもないし、登場人物は毎日ちゃんとご飯を食べて、お風呂に入って、眠るという日常を送っているのに、幻想的な仕上がり。ばなな小説の持ち味は、これだと思う。



どなたかが「日常から30センチ浮いている」みたいなことを文庫本(タイトルは失念。ごめん)の解説に書かれてましたが、いい得て妙。30センチが適切かどうかは分からないけどね。私としては、もうちっと浮いている気がする。しかしその距離は計測不可能です(笑)。

これって力量がないと書けないと思うんですわ。たとえば、アンドロメダ星雲の中にあるなんとか惑星には、高度な文明をもつ生命体がいて…というお話しなら、世界観を構築する手間ひまと、リアリティをもたせることに工夫がいるでしょうが、幻想性は自ずとついてくる。

片やばなな作品は、材料のほとんどがありふれているのに、リアルな世界からふわんと浮いてみせる。浮くためにはセンスを伴った技術が必須でしょう。宇宙の彼方にがーっと飛び去るような圧倒的な勢いは分かりやすいけど、少しだけ地面から浮遊する制御の利いた技術は見えにくいといいますか。普通っぽい故に、ここんとこのワザが見逃されている気がする。

で、ばなな小説を映画化するとしたら、私は「かもめ食堂」や「めがね」を監督した荻上直子で観たいな〜。淡い味付けで鮮やかに非日常を描く、彼女の手腕はすごいですわね。「ハゴロモ」のインスタントラーメンが、ものすごくおいしそうに映像化されたりしたらいいな。んまそう。