本の畑

えっちらおっちら耕す、本やら何やらの畑。情報は芋蔓のように地下でつながっている。たぶん

あざみの衣


西脇順三郎のエッセイ集『あざみの衣』。
1961(昭和36)年、大修館書店刊で、
表紙を飾るイラストと内部のカットは詩人によるもの。
さらさら〜っとした感じのタッチに、
詩人の余技というには巧みすぎる技術とおされ感が現われているですね。
持っているのが、うれしくなる1冊でございます。

同名の本が講談社文芸文庫からも出ていまして、
私は写真の単行本のほか、この文庫本も持ってます。
順三郎の本はなんでも欲しいのさ〜(笑)。
で、さっき写真を撮ろうと思って何気なく目次を見てたら、
なんと単行本と文庫の中身が違う。
いったい何年、こんな大事なことに気がつかなかったのでしょう。

単行本の『あざみの衣 』は、
編者である鍵谷幸信さんが、
1961年の時点で単行本未収録だったエッセイから
詩人、英文学者、随筆家の
三面を示す文章をピックアップ。
「いわばオムニバスといってもよい内容」
と後記で述べられています。

一方、講談社文芸文庫の『あざみの衣』の裏表紙の宣伝によると、
単行本『あざみの衣』に収録されたエッセイを核に、
単行本未収録エッセイ群20をプラスした内容なんだとか。

私にとって大発見だったのは、同文庫の『野原をゆく 』で見つけて以来、
とっても気に入っている侘しくも美しい小説のような短文(散文詩か?)<土星の苦悩>が、
単行本の『あざみの衣 』に収められていること。
文芸文庫の『あざみの衣』には、どうしたことかこの文章が入っておらんのよ。なぜだ…。

講談社文芸文庫の発行順を確認すると
1・野原をゆく 1990年
2・あざみの衣 1991年
なので、順三郎のエッセイを幅広く網羅した1を出したところ
予想以上に売れたので、翌年、2を編集。
土星の苦悩>は既に1に入っちゃっているので、収録する文章を未収録のネタに求めた、
という経緯があるのではないかと勝手に想像しました。

上の写真の真ん中に写っている旺文社文庫の詩集には、
作品の解説や年譜のほか、詩人の写真も手練なカットも入っていて
気に入ってるんですが、
いつの間にか本屋さんから姿を消してました。

文庫本大好きさんの旺文社文庫記事を読んでいたら
1987(昭和62)年に文庫自体が休刊になったらしいです。
手に入る本がどんどん減っている気がするな〜。
私、そんなにマイナー趣味じゃないんですけど。ぶひ。
最後に『あざみの衣』の巻頭に掲げられた詩の後半を。

(前略)
昔の夏にジュースを飲んだ空きびん
にガマズミの実とさとうを入れて
きりぎりすの霊をまつる
この本の中の考えは
テーブルをくもらす
雲の通過であろう
かれたあざみの茎と葉で
織った衣の袖にかくす
はらみ女の笑いの海への
祈りとなろう